がんの診断は、がん細胞の"顔つき"で決められる?!

2017年03月14日

現役病理医おぐママの病理診断な日々 第3回


 

 

みなさん、こんにちは。病理医のおぎママ、じゃなくて、おぐママです。病理医は、がん細胞の"顔つき"を見て、がんと診断しています。一体どういうことなのでしょう?

 

がん細胞は「見た目」だけで判断?

 

病気の最終診断となる病理診断。病理医は、病変の一部を採取し、細胞や組織を顕微鏡で観察し、病気の「最終診断」を下します。

しかし!

なんと病理医は、基本的に細胞の「見た目」のみで診断しています。がん細胞だなぁ~と病理医が思ったら、がんなのです。

ええ? そんなアバウトでよいのか? だって、最終診断ではないですか!!と、驚かれることと思いますが、それは紛れもない事実です。

 

たしかに近年では、染色体検査や遺伝子検査が発展し、疾患の多くが、遺伝子レベルで診断されるようになっています。しかし、大概の病気は、依然として病理医が、「細胞の見た目」で判断しているのです。細胞の大きさ、形、配列、それらを細かく観察して診断しています。

「こいつ、顔つき悪いから、がんだね」

というようなノリなわけです。

 

がん哲学で有名な樋野興夫教授(私の所属する大学の病理学教授です)が、

「病理医は、細胞の顔つきを見て心を読むのだ」

とおっしゃっています。深い・・・

 

がん細胞らしい「顔つき」って?

 

専門用語に、「異型(いけい)」という言葉があります。正常から逸脱している状態を意味します。病理診断では、病巣を作っている細胞たちがどのくらい正常と逸脱しているかを観察し、診断を下すというプロセスをたどります。病理診断にはその疾患ごとに基準が設けられていますが、そこには、「見た目」の基準が項目として挙げられています。

 

「前がん病変」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。がんの一歩手前の状態の病変を指すのですが、「正常」「前がん病変」そして「がん」へと悪性に向かうにつれて正常から逸脱している程度が大きくなっていきます。

このくらい逸脱していたら「前がん病変」としよう、いやいやもっと逸脱しているから「がん」にしよう、というふうに、段階ごとに異型性を判断して診断していきます。

 

どうやって細胞や組織を観察するの?

 

細胞や組織はそのまま顕微鏡で観察することはできません。光学顕微鏡で観察するには、光を通す薄さにする必要がありますが、細胞はほぼ無色透明で染色しないと見えません。このため、繊細な技術で処理を行います。

 

採取された細胞や組織は、まずホルマリン液に漬けられ、組織が変性しないよう「固定」という処理を施された後、パラフィン(いわゆるろうそくの”ろう”ですね)でさらに固められ(「包埋(ほうまい)」、組織を切りやすくするための処理)、4μmという厚さで薄くスライスされます(「薄切(はくせつ)」)。
 

▲包埋(ほうまい)を行っている様子

 

 ▲包埋された組織(左)と固まる前のパラフィン液に浸された組織(右)

 

▲薄切(はくせつ)を行う臨床検査技師さん

 


 
▲薄切された組織(赤丸で囲んだ部分)。4μmの薄さがお分かりいただけるでしょうか?

 

薄い切片は、ガラススライド上に貼り付けられた後、組織を観察するためのヘマトキシリン・エオジン染色という染色がなされ、ようやく観察できるようになります。

 

▲染色の様子

 

▲ヘマトキシリン・エオジン染色後の標本(肺がん)

 

ここまでの工程は、すべて病理を担当する臨床検査技師さんのお仕事です。ヘマトキシリン・エオジン染色というのは、上の標本のように、ピンク色に見えるエオジンという色素と、青紫色のヘマトキシリンという色素を用いた染色です。細胞はDNAが格納されている核という部分とそのまわりの細胞質から構成されており、細胞質はエオジン、核はヘマトキシリンに染色されます。

 

がんは、見た目ですぐにわかるものなの?

 

がんは、発生した臓器によっても、また患者さんによっても「顔つき」が異なります。人の顔がそれぞれ異なるように、がん細胞もそのひとらしさがあるともいえます。

 

また、明らかに病理医満場一致でがんと診断できるものもあれば、意見が割れるような症例もあります。

これが厄介なのです!

患者さんにしてみれば、私の病気は良性なのか、悪性なのか、100%正しく診断してほしいと思うのは当然なことで、病理医も100%の診断を目指して努力をしています。しかし、診断に悩むものがあるのです。

 

がんによっては、そもそも良性と悪性の間に「境界悪性」というグレーな腫瘍が存在する場合もあります。代表的なものが、卵巣にできる腫瘍です。

 

かなり診断に悩むような難しい症例に関しては、病理医もその診断は慎重にならざるをえません。その時には自分よりさらに詳しい専門家に意見を聞くこともありますし、上記のヘマトキシリン・エオジン染色以外の特殊な染色を追加して行い、診断の根拠を集めていくこともあります。

 

見た目以外の根拠になる!驚くほど進歩している「免疫染色」

 

通常は、このヘマトキシリン・エオジン染色だけで病理診断が行われることが多いですし、数十年前までは、ほかに有用な染色は多くありませんでした。しかし、近年は、特別な染色を追加して良性か悪性なのかを判断したり、細かながん細胞の特徴を調べたりすることが多くなりました。この染色は、免疫反応を用いた手法のため、免疫染色と呼ばれています。

 

細胞が持っている「抗原(アレルギー反応などの元となる物質)」に反応する(くっつこうとする)「抗体(反応を抑えようとする物質)」を細胞の上にのせてあげると、”抗原抗体反応”という免疫反応が起こります。ここで作られた”抗原と抗体がくっついた複合体”を色素で見えるようにしたものが免疫染色です。

 

ここ10年ほどで免疫染色は非常に進歩し、その数も著しく増加しました。そして最近では、病気の良悪性の確定診断そのものに用いるだけでなく、抗がん剤が効くのか効かないのか、ということを調べるためにも活用される機会が増えています。

 

病理診断の発展については、最近、話題にのぼることの多い乳がんをテーマに、また折を見てお話ししてみようと思っています。それではまた!

 

病理図鑑 No. 3  ♦子宮体がん♦


 
▲子宮体がんの中でも高齢女性に好発する予後の悪いがんです。漿液性腺がん(しょうえきせいせんがん)という名前です。病理の教科書にはシダ状とか、乳頭状の形態を示す、と説明されているのですが、素人の主人に「何に見える?」って聞いたら、「万華鏡みたい。」とのこと(!!!)みなさんは何に見えますか?

 

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